第七回 :市場拡大要因を総括 -消費者ニーズを実現する流通システム

(本レポートは2012年5月 住宅新報に連載されたシリーズの原稿を元にしています。)

1990年以降急拡大した米国の不動産流通市場。本稿ではそれを支えた不動産流通システムの特徴や業界団体、行政の取組みの解説を連載してきた。最終回となる第7回は、米国流通市場の拡大要因を総括したうえで、小林不動産業政策調整官が考える米国流通システムから学ぶべきポイントを考察してもらう。



 米国の中古住宅流通市場が拡大してきた背景には、人口増加や移民・海外からの資金流入、若年層の購入意欲の高まり、ベビーブーマー世代の大量リタイアに伴う老後の住宅需要といった実需と、住み替えを頻繁に行う国民性がベースにある。
この実需や国民性を後押ししてきたものの中には、長期・安定的な低金利のほか、税制面の取組みがある。譲渡税の控除やローン利子控除制度だ。譲渡税の控除は2年間の居住要件を満たすことで、夫婦合算申告で50万ドルまでが免税されるもの。2年経過で何度でも利用可能だ。特に、米国の伝統的なライフスタイルになっている買い替えサイクルを支えてきた。
住宅取得に対する消費者の意識も大きい。米国では一般的に住宅の資産価値が上がっていくことから、品質を維持すれば売却時に利益が出る資産、良質な投資だという考え方が浸透している。収入や家族構成の変化などライフステージに合わせて、7〜8年程度で新たに手入れの行き届いた中古住宅に住み替えるサイクルにつながっている。

こうした消費者の需要や認識を支えているのが、不動産流通システムだと言える。成約価格・取引履歴情報を含めた透明性の高い情報提供システムや不動産エージェントと市場関係者との役割分担・分業システム、エージェント・ブローカー、業界団体あげて取り組む教育システムの充実、建物検査の制度化などは取引を行う消費者に安心を与えている。物件の価格査定方法の確立は住宅価値の維持、向上に寄与している。これらの相互作用が結果的に取引量の増加や市場の急成長につながっている。

ここで、今後の我が国の流通市場を考えると、住宅ローン返済終了時に資産価値が残りにくい現在の仕組みは、課題であると言える。課題解決のためには、例えば木造住宅でも耐久性が高く、60年以上住み続けられる良質な住宅が豊富に供給される市場作りからはじまり、築年数のみならず性能・品質に応じた住宅の価格査定手法の確立が必要になると考える。取引の円滑化に視点を移せば、消費者が求める物件情報の整備や提供の充実も求められる。米国の物件情報提供システムを支えるMLS(Multiple Listing Services)の仕組みから学ぶべき点は多い。

さらに、政府や金融機関の税制・金融支援により、省エネ・耐震改修をはじめとするリフォーム需要の喚起や、性能・品質を重視した住宅の売買、維持・管理を後押ししていくことが重要であると考える。住宅の取得や住まい方、流通時に必要な知識についての消費者に対する「住育」も必要だろう。こうした合理的で透明性の高い市場環境の整備と国民の住宅や住まい方に対する意識の改革、流通市場関係者の消費者ニーズに対応したサービス提供の充実が同時進行することで、我が国の流通市場拡大につなげられると考える。

米国流通システムの特徴として、市場関係者の役割を明確化し、ビジネスを展開しやすい環境を整備しながら、官民をあげて消費者の満足度を最大化する市場づくりに取り組んでいることが言える。流通システムはどれも時間をかけながら取り組んできた成果だ。その前提に文化や商習慣の違いもある。ただ、それだけで片付けず、本連載を通じて多くの学ぶべき点が共有され、我が国の流通市場活性化に向けた議論の契機になれば幸甚である。

 最後に、不動産流通システムは、多様な消費者ニーズへの対応や消費者保護を実現するためのものと考える。消費者が求める住宅をより選択しやすい環境のもと、より安心して効率的に売買できる仕組みを構築するツールだ。国民それぞれのライフステージやライフスタイルに合った住宅が供給されていくように、行政の人間の一人として、市場関係者の方々と協力しながら努力したいと考えている。

(2012年5月 国土交通省不動産業政策調整官(当時)小林正典)

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