第六回 :ホーム・インスペクションの制度化 -検査基準標準化で消費者保護実現

(本レポートは2012年5月 住宅新報に連載されたシリーズの原稿を元にしています。)

米国では、建物検査(ホーム・インスペクション)の制度化が進んでいる。01年から検査基準やインスペクターの資格制度が普及し、現在30州で制度化。中古流通促進に寄与している。第6回はインスペクション制度の経緯と特徴について、解説してもらう。

 米国のインスペクションの歴史は、1976年まで遡る。この年、ASHI(American Society of Home Inspectors)という業界団体が設立。差し押さえ物件の価値を見極める目的で、投資家のために制度が作られた。当時、資格は不要だった。
住宅分野で本格的に活用され始めたのは1990年代から。当初は、顧客が家を買うための知識の1つに過ぎず、契約書上のものではなかった。その後、中古流通量の増加にともない検査取扱量が増え、ASHIのほか、NAHI(National Association of Home Inspectors )などの10数の建物検査関連協会で、ルールや基準が作成、運用されてきた。
初めて法制化されたのは、01年のマサチューセッツ州。インスペクターが消費者保護に抵触する例が見られたことが背景にある。ワシントン州でも、行政の検討や協会の要望、消費者団体からの要請が重なり、09年に州法が制定。インスペクションの資格制度が施行された。

インスペクションは通常、契約成立後に、買主側の不動産エージェントの紹介を受け、買主立ち会いのもと、実施する。約2〜3時間の現地調査を踏まえ、購入物件の現状レポートを作成。買主は報告を受けて最終的な契約の判断や修繕すべき箇所の確認を行う。
検査項目や基準の特徴は何か。最低限を検査することだろう。建物構造を詳細に調査し、瑕疵(かし)や問題箇所を全て見つけるのが前提ではない。調査項目は現況を見て、経済的な損害があるのか、健康を守る基準が満たされているのかなどに限定される。州が定める最低基準項目をチェックし、細かい構造などには立ち入らない。
売主が買主側に示す物件状況の告知書の内容も踏まえ、契約を最後まで履行してよいかどうかを確認する制度となっている。

インスペクターは、第三者性が重要になる。売主と買主は立場や利益が相反するので、双方から中立であること、倫理基準に基づき検査することが求められる。費用(通常約500ドル)は買主が払うが、買主のニーズを満たしているかどうかは無関係で、事実がありのままに報告される。インスペクターは、取引の有利不利などには一切関与しないという。制度面でも、インスペクターによる修理・工事や、エージェントとの癒着を禁止している。

インスペクターの質の維持、向上に教育制度の果たす役割は大きい。ワシントン州では資格取得のために、120時間の初期教育、250時間の実地研修を必須化している。資格の有効期間は2年で、更新のための継続教育も24時間が課されている。法制化以前は州内約1500人だったインスペクターが、法制化後の現在は700〜800人規模の専門家集団になっている。バックグラウンドは建築・土木施工関係が多い。

インスペクター業務を詳細に見てみると、その難しさを感じる。ワシントン州では、通常のインスペクションレポートは最低10〜15ページ。良いインスペクターは50ページ程度だという。詳細過ぎても評価されないが、一方で買主の納得感や安心感を得る必要がある。基礎から屋根まで、建てられた年代や工法別の家の状況、地方行政の法律などにも精通していなければ、短時間で要求水準を満たす検査や報告は出来ない。

 インスペクターによる修理・工事の禁止をはじめとする分業化システム、エージェントとの癒着禁止、教育制度の充実。この10年で急速に制度が進んだ米国ホーム・インスペクションの共通事項だ。住宅購入者が安心して契約できる流通システムや市場拡大に貢献している。我が国のインスペクションの在り方検討時に参考になる部分があると考える。
(2012年6月26日 国土交通省不動産業政策調整官(当時)小林正典)

© 2016 JARECO ( Japan America Real Estate Coalition Office ) All rights reserved.

Navigation

Social Media