第二回 市場を支える分業化システム - 消費者と事業者がウィン・ウィンに

(本レポートは2012年5月ー6月 住宅新報に連載されたシリーズの原稿を元にしています。)

エスクローやホームインスペクター(建物検査)、モーゲージブローカー(住宅ローンアドバイザー)、アプレイザー(建物鑑定士)、タイトル会社(権原調査保証会社)――。米国の不動産流通では、不動産エージェント(日本の宅建業者)が契約成立後、各専門家との分業化・役割分担により、物件引き渡しを効率的に進めるシステムが機能している。第2回は、この分業体制が構築された背景や日本での導入可能性について解説してもらう。

 米国の不動産取引は物件の売出しが地域の売却物件情報管理運営会社(MLS: Multiple Listing Service)による物件情報提供により開始され、物件購入検討者(買主)の代理人である不動産エージェントと売主のエージェントとの条件交渉により契約を行う仕組みになっている。この間、売主は告知書の提示により現状を買い手側に明らかにし、売主の不動産エージェントは、売却価格報告書を提出し、価格の根拠を説明する。
その後の分業化システムは、契約交渉・締結後の消費者保護を図るための仕組みとなっている。このシステムは、全米リアルター協会(NAR)が消費者ニーズを把握し、連邦・州政府に伝え、消費者保護政策や取引促進策を進めていく中で確立された。消費者、業界団体、政府の三位一体による改革であると言える。
米国市場もさかのぼれば、1980年代までは業界主導の市場だったと伺う。そこにスポーツ界のFA制度が波及し、個々人のエージェントの独立性が強まった。2000年以降はインターネットの普及やMLSによる物件情報内容の充実により、消費者がある程度の市場価格や物件内容を判断できるようになった。
そこで賢くなった消費者のニーズが多様化し、これまで以上に合理的・効率的に手続きが進められるよう各専門家の役割がクローズアップされた。90年代以降の価格査定やホーム・インスペクションの制度化もあり、不動産エージェントは多様化する消費者ニーズに対応するため、専門家との連携・分業により取引を進めるようになった。
各エージェントは、条件調整・書類確認・精算などはエスクロー、物件権原調査・保証はタイトル会社、建物検査はホームインスペクター、建物査定はアプレイザーといった各種専門家とのネットワークを確立している。各分野・手続きにおける相談・トラブルは各専門家が対応するため、エージェントのリスク分散になっている側面がある。また、取引を効率的かつ確実に履行し、消費者へのサービス提供を充実していくための必然的な結果でもある。
各手続に係る費用は州により異なるが、ワシントン州の例では、不動産エージェント手数料は売主が、売主・買主の両エージェントに購入金額の3%を支払う。更に、買主にはエスクロー代やローン手数料、物件鑑定代などの負担が発生する。このように、日本の手数料以上に売主、買主の経費負担は大きい。
これは買主側から見れば、安心して確実に住宅を購入するための安心感を負担すること、売主側は売却手続きが効率的に履行されることや確実性を得ていることになる。専門家も、取引件数が増えればビジネスチャンス拡大につながる。分業化に基づく流通システムが市場関係者の利益拡大・雇用対策にもつながり、消費者も安心して住宅購入・住み替えができる、好循環をもたらしている。

 こうした分業システムの日本への導入可能性を考える。米国とは歴史的・文化的な背景や商習慣の違いがあり、このシステムをそのまま日本に導入できるとは思わない。それでも、どうしたら消費者がより安心して中古住宅を購入できるか、市場関係者と消費者がウィン・ウィンの関係になっている米国の分業システムは、今後の我が国の流通システムの在り方を模索するうえでのヒントがあると考える。
(2012年5月29日 国土交通省不動産業政策調整官(当時)小林正典)

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